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2018.11.19
こんにちは。みどりクラウドの研究・開発担当をしているA.Iです。
今回はみどりクラウドの日射量センサーの性能がどのように決められたかについてのお話になります。そのためには、そもそも太陽光について少し触れておきます。
「表面温度6000Kの球体から発する黒体放射のスペクトル」というと難しい言い方になってしまいますが、要は非常に高温の球体が赤々と光っている状態なわけです。その光のスペクトルは図1にあるように、赤い線で示したような0.3 ~ 3μmの範囲に広がる波長の光が出ています。
この中でも人の目に見える光の領域を「可視光」(図中の緑の領域)というわけです。実際には太陽光は空気によって吸収されてしまい、青い線で示したようなスペクトルになって地表面に到達します。
さらに、日射量センサーについて説明するためには、植物と日射量についてもふんわりと説明しておかねばなりません。
植物は光が来るとどんな光でも吸収しているわけではありません。図2のように、青い光は400nm付近で、赤い光は700nm付近ですね。このように、植物の葉の中にあるクロロフィルが青色と赤色の光を吸収しています。(緑色の吸収があまりないので、葉は緑色に見えるわけですね。)
光の明るさも強ければ良いというわけではなく、強すぎる光を当てると光を吸収しないように働く機構が備わっていると考えられています。2001年のScience雑誌に掲載された研究に非常に面白いものがあります。「光」という形の強い光を当てたときに、葉緑体が強い光を吸収しないように回避行動をとるのですが、その瞬間の撮影に成功したそうです。
(参考:science )
植物の生長と徒長についても、太陽の光が当たりにくい場所に植えられている植物では、より光が当たる位置へ移動するために徒長を促すという反応を示し、十分に光が当たっている植物は徒長が抑制されるように反応すると言われています。光合成は純粋な化学反応なので、光だけが当たっていてもその他の材料がなければ反応が進まないからですね。こうして、植物の生体内で適切な化学反応が行われるように動いているわけです。
通常のセンサーと同様にセンシング部・電源部・マイコン部と主に3箇所に分類できます。また、日射量センサーの場合では太陽光の当たる量がハウジングによることや、窓の箇所が光の波長特性に影響が出る可能性があるので、細心の注意をして設計する必要があります。
光を検出する部品としては、フォトダイオード、光電管などにより光の強度を直接測定する方法の他、サーモパイルを利用した熱量から光のエネルギーを割り出す方法などがあります。高精度で高速に測定できるものを、、、というといくらでもできますが、やはり問題は価格が上がってしまうところです。
そこで、今回はフォトダイオードで安価に抑えつつもコンピュータ上の処理やハウジングなどに力を入れることで精度を高めております。
例えば図3に示しているのですが、可視光領域で使うフォトダイオードというと、光の検出波長が200 nm程度の真空紫外光領域の波長の光を検出可能なものから1100 nmあたりまでの赤外光領域の光を検出可能なものまで様々です。例えば400 ~ 700 nmの光を検出可能なフォトダイオードと言ったとしても、500nm付近の光には強い感度を示していますが、700nmあたりになってしまうとあまり検出できない、といったこともあります。
当然カバー範囲の広い素子は高価なので、今回は400~1100 nmあたりをカバーしているフォトダイオードを利用しております。ちなみに、強い感度のところと弱い感度のところにそれぞれ同じ強さの光を当てると、当然強い感度波長の光を当てたときのほうがフォトダイオードから出てくるエネルギーが高いものになります。
そうすると、フォトダイオードの光の感度は各波長に対して一定ではなく、山なりの形をしているわけなので、太陽光をフォトダイオードに当てて出てきたエネルギーから単純に日射量は○○W!とはいえないのです。そこを算出するためには、「到達した太陽光の各波長に対して、光の感度はどの程度か」、というのを計算しないといけないわけです。さらにややこしいのは、太陽光のスペクトルもフォトダイオードの感度曲線も連続的で滑らかに変化しているのです。細かく厳密にいうと、400nmと401nmの太陽光では若干強さは違いますし、極端な話では400.01nmと400.02nmでも強さが違っているわけです。
ここをどうするか、ということについては次に述べるような方法で解決しています。積分を勉強した方だと区分求積法なんて記憶に残っているかもしれませんが、それに似たやり方です。
例としては図4のような感じですね。405~415nmの領域であれば強度の平均値を取ってしまい、その強度としてしまうわけです。そのときには405~415nmであれば、その幅となる10nmも重要です。そうすると、この10nmの間の光のエネルギーと感度が一定値にできてしまうというわけです。みなさんここで当然疑問に思いますよね。急カーブのところでは誤差が大きくなるのでは?とか。そこについては、細かくすれば細かくするほど値の精度が良くなっていくわけですが、そもそもみどりクラウドでは1000Wm-2とか400Wm-2とかの1の桁の数字までしか出していないわけです。なので、厳密にしたとしても0.1の桁は全て四捨五入されてしまうので、それ以上の厳密さはまったく不要ということです。そこで、この幅が決まってくるわけです。その他にもそもそもフォトダイオードの誤差以上にしても意味が無いとか、他の要因で出てくる誤差から決めてしまえるのです。
さて次の大きな問題ですが、太陽光は3000nmまでスペクトルが裾野を延ばしているほど波長領域が広いのですが、今回のフォトダイオードではせいぜい1200nmまでしか感度を持ちません。これで太陽光の正確なエネルギーを出せるの?というところです。
ここはなかなか難しいところです。超高精度な日射量センサーの場合には「300~3000nmまでの全てのエネルギーを吸収して受けたエネルギー」と、「光がまったく当たらないところに隠れているセンサーが同じ時間に変化したエネルギー」の差を太陽光から受けたエネルギーとしているわけです。そうすれば太陽光以外のバックグラウンドを差し引けるので、正確に出せますよね。みどりクラウドのセンサーではそういうわけには行かないので、次のような仮定を置いています。
「地表面まで届いたときの太陽光のスペクトル(図1の青線)が太陽光の入射角度に依存せずに形が同じ、ただ弱くなってきたときにはスペクトル全体の強度が均一に下がる」(図5)
本来太陽光の角度が変わることで大気の層の厚さが変わってしまうので地表面に到達する太陽光のスペクトルも変化してしまうのですが、そこは誤差としてしまった場合ですね。ここも「夕方赤く見える太陽のスペクトルは~~~云々」というのはあるのですが、どの程度の誤差か、というところですね。考えるためにももちろん計算しております(別の機会にでも。。。)
この二つの点を考慮すると、ようやくフォトダイオードでも比較的精度の高い日射量が求められるようになってきます!これらの補正式をクラウドに組み込んでフォトダイオードから得られた生の値が日射量に換算されます。
全天日射計、直達日射計などの単語は聞いたことあるかもしれませんが、厳密に測定したい日射量によってどちらが良いか、となってきます。
全天日射量というのは、太陽から直接到達する光と散乱によって届く光の両方をあわせた日射量になります。そのため、構造的にはドーム型の日射計が多くなります。
それに対して、直達日射量というのは、太陽光から直接届く光のみをカウントする場合になります。散乱光を上手にカットするために、円筒型のものが多くなります。
みどりクラウドの日射量センサーは全天日射計に近い構造ですね。
さらには、超高精度に測定するとなると光がセンサーまで到達する間にある窓が非常に重要です。窓は人間の目からしてみると可視光をきれいに透過してくれるため、透明に見えますが、実は紫外線にとっては真っ黒とか、赤外線はまったく通さないガラス板とかもあります。
これが全ての太陽光をきれいに通すガラスとなると200 ~ 3000nmまで光の吸収が無いガラスということになり、ガラスの箇所が一番高価、とかなることもあるくらいです。
みどりクラウドのセンサーの場合400 ~ 1100 nmの光を透過すればよいので、そこまで高級品ではなくとも問題ないのが幸いです。
そして、完成した試作機をいざ試験。
試験は超高級(30万円くらい!)で精度検定済みの日射センサー(1st class)と比較します。
図6が両方のセンサーを並べて測定した場合で、図7は同時刻の値を比較したものです。通常みどりクラウドでは2分毎にデータを取得しますが、今回は実験のため10秒毎にデータを比較しています。
図6を見ると青がオレンジにほぼ隠れてしまうくらい良く一致しているように見えるので、図7でどの程度ずれているか評価してあげるわけです。そうすると、図7の赤矢印で示したようなところは、瞬間的に日射量が変化したときのもので、高精度のものに対してみどりクラウドの測定速度が追いついていないところが見えてきます。ただ、ここについて今回は10秒毎の測定だから目立つのであって、実際はそれほど問題ではないところです。図7の左上にある直線の式が重要です。
これを見るとy = 1.015xとなっているわけですが、平均的に1.5%程度ずれている程度、ということです。
これはつまり、30万円もの価格の日射計とみどりクラウドのセンサーがほぼ同等の値を出してくれる、ということですね。
もちろんこの価格差は最初に述べているような誤差を含む可能性があるので、常にここまでの精度を保証できるものではない、というところが注意点です。
現段階の農業において、仮に1%の誤差に収めた信頼度の高いデータを必要としているか、まだまだある程度の誤差は許容してでもデータを収集するところに意味があるのか、このあたりを考えるとみどりクラウドのセンサーで高級なセンサーと同等の役割を果たすことも十分にできるものなのですね。