祖父の代から続くイチゴ農家として、自らのルーツを守りたいという想いに駆られ、建築の世界から転身。スカイベリーの高設栽培で、データを活用した精緻な方法を駆使し、栽培技術と品質の向上に取り組まれています。
大学では建築を学びましたが、一生の仕事を考えた時に、自分には家族が大切で、祖父の代から続く農家というルーツを守りたいと思い、就農しました。栽培を開始して6年目。経営的なことは父が担っていますが、60アールのうち、23アールの圃場を管理し、高設栽培でスカイベリーを育て、2018年9月から「みどりクラウド」を導入しています。導入したのは、高設栽培では重要である培地内の環境を精緻に把握したかったから。イチゴはストレスに弱く、繊細です。特にEC値(肥料濃度)がシビアで、濃度が0.1違うだけで生育が変わる。センサの測定場所でも微妙に変動しますが、肥料濃度と1日の水分値を可視化することで増減がわかるので、その数値を目安にしながら補正しています。
最初の2〜3年は、父のやり方を少しずつ覚えながら、他の圃場も見学しました。そこで気づいたことを取り入れながら、自分で最初に行ったのは、生育調査。イチゴは11月中旬から収穫が始まり、同じ株でトータル4回転ほど収穫できますが、スカイベリーはロス率が高く、試験栽培当初は規格に満たないものがかなりありました。4回転の収穫の中で花数、葉の展開、草丈、果房の動きを精緻に見ていくことで、失敗した時に、どこで間違ったかが明確になります。どこかが上がれば、どこかで落ちる。果実にエネルギーを与える「生殖成長」と植物の茎や葉、根などのからだをつくる「栄養成長」がありますが、果実に栄養が供給されている時は、葉の展開が遅くなります。栄養供給元の体が出来上がってない状態で花数がつくと、着果負担で体力を消耗するので、株全体のバランスが崩れ成長が止まります。これが株疲れによる中休み現象です。このように4回転の収穫の間には波があって、その生育の周期を見ながらバランスを取り、なるべく波が大きくならないように育てる。上手な生産者は、その波が穏やかです。イチゴに備わっているポテンシャルの総量というのは多分、変わらない。なので、いかに波を少なくし、出し切るか。それが栽培のコツだと思います。
とにかく美味しいといってもらえるものを作りたい。だから、品質第一。生育調査でも、糖度と酸味の食味検査を導入しました。5段階の星で評価し、誰が食べても美味しいと感じる「3」を平均とし、それを超えるものを目指す。栄養成長と生殖成長のバランスを取りながら、果房を選んで剪定し、1〜5果残しまで試しました。摘果で収量は落ちると予想していたのですが、逆に着果負担が減ったことで花芽の出蕾間隔が短くなり、収穫が6回転に増えた。だから、収量はほぼ変わりませんでした。ロス率も、年間を通じて30%だったのが、今は15%。最終的には、年間を通じて5%くらいにしたいと考えています。
今、宇都宮大学と共同研究を行っていて、栽培したスカイベリーの完熟イチゴが、ベルギーに本部がある国際味覚審査機構(iTQi(International Taste of Quality)」主催の食品コンテスト「Superior taste AWARD(優秀味覚賞)」で、3年連続「3 Golden Stars(優秀味覚賞三つ星)」を受賞しました。大学発のベンチャー企業と宇都宮大学が共同で開発した非接触型個別容器を使って、本来なら2〜3日で痛む完熟のイチゴを、果実表面に触れずに収穫し、容器内に固定することで、完熟の状態を保ったまま輸送し、出品しました。コンテストが開催される4月下旬から5月にかけては、収穫が終わりの頃で、かなり厳しい時期。受賞したイチゴも、自分の食味検査では「3」くらい。まだまだ伸びしろがあると思っているので、そこを追求し、世界に誇れるようなイチゴにしていきたいと思っています。
今はモニタリングがメインですが、今後は制御ができるようになっていくでしょう。そうするとエラーなく、ウイルスによる誤作動もない、安全に制御できる点が重要なポイントになっていくと思います。データ活用の実績がある「みどりクラウド」なら、これまでの進化の過程を見ても、アップデートのスピードや対応が早い。その意味でも、信頼性は高いと思います。
今はできることから少しずつ積み重ねて、品質を高め、販売につなげていきたい。売れるからやる、のではなくて、品質を追うことで、みんなの努力がきちんと還元されるような農業のシステムをつくっていきたい。消費者が何を求めているのかを考え、ニーズに応えていく。常にそれができる生産者でありたいと思います。今後は海外も視野に入れて、グローバルGAPも取得します。海外に出荷した時に、自信を持って美味しいイチゴだと誇れるものにしたい。一つ一つ結果を出していくことが、現状を変えていくことにつながっていくと思います。