中村和博さんは、地方の活性化に寄与することで子供世代や孫世代のライフスタイルを豊かにしたいと考え、2010年より脱サラして長野の生坂村で農業を始めました。いたずらに事業規模を拡大せず、自分たちの管理できる範囲で歩みを進めようと、フランス語で小さな果樹園を意味する「ぷてぃ・ぺるじぇ」と名付けた農園で、ブドウを中心に農業に取り組んでいます。
「おいしさ」「優しさ」「みずみずしさ」「未来」、そして「らしさ」の5つにこだわり、シャインマスカットをはじめ巨峰やシナノスマイル、ナガノパープル、リザマートとさまざまな品種を生産。2024年からはブドウだけでなく本格的にアルストロメリアの栽培もはじめ、IoTを活用して、取り組みの範囲を着実に広げています。
私たちは現在2棟(30a)のブドウハウスを所有していますが、それぞれ「みどりボックスPRO」と「ふくごう君Ⅱ」を連動させて、換気と内カーテン、ボイラーを複合制御・遠隔制御してハウス内の温度を管理しています。特にプランター栽培(根域制限栽培)を行うハウスでは細かな制御が必要なため、CO2センサと土壌ECセンサを組み合わせるなど、環境に合わせて機器を導入しています。
少しずつ新しいデータ活用に挑戦し、今でこそほかの農園とのデータ共有機能を実際に利用するといったような幅広い使い方をしていますが、最初に注目したのはモニタリングではなく、複合制御技術です。
当時は、早朝と夕方にビニールハウスの内カーテンをスイッチで開閉して温度調整する作業が、大きな負担になっていました。簡単な作業ですが、ブドウ優先でスケジュールを考える必要があり、長く続けるのは大変だと感じていたため、設定した「時間や温度」で開閉を自動化する機器を導入することに決めました。
早朝と夕方の業務がなくなったことで、無理なく働けるようになりました。睡眠時間を確保でき体調を崩すことが少なくなっただけでなく、精神的なゆとりが増えて農園の雰囲気も明るくなったと感じます
以前は、内カーテンのスイッチを押すためだけにハウスに誰かが居なくていけないという制約が常に頭の片隅にあって、今思えば心の余裕がありませんでした。夜に家族と外食するのも時間が限られる、打ち合わせなどを外せない場合は従業員の力を借りるといったように、周囲にも「ブドウ優先」に協力してもらう必要があり、心苦しかったです。
こういった負荷を減らし、働きやすい環境に改善できたことは、省力化に留まらない大きな効果だと思います。
手動で巻き上げるタイプのビニールハウスだと、年間の稼働の15%がハウス管理に費やされているという統計データがあるそうです。私たちはスイッチで操作していたため15%ほど大きくはありませんが、「ふくごう君Ⅱ」と組み合わせることで遠隔制御が可能となる「みどりクラウド」と出会い、内カーテンの操作に使っていた時間を別の作業に活用できるようになりました。
作業負担が減ったことで、自然に目の届く範囲が広がり、ほかの作物栽培へチャレンジするといった形で経営規模の拡大につながりました。2024年には省力化によって余裕ができた時間を使い、ブドウ以外にアルストロメリアの栽培をスタートしています。
また人力では難しいハウス環境の細やかな制御が可能になったため、モニタリングしたデータをもとに、今までは気づきにくかった小さな変化を意識するようになったと思います。
「みどりボックスPRO」や「ふくごう君Ⅱ」の機能は、内カーテンの開閉だけではありません。私たちは少しずつ高度な制御やセンサで取得したデータ活用を進めており、省力化以外に、ブドウ1粒の大きさや重さが向上して秀品率が上がり、収量も約2割増えるといった成果も出ています。
「ふくごう君Ⅱ」は時間帯を6つに区切って制御できますが、導入当初はそこまで細かく設定する必要はないと思っていました。しかし収量をアップさせるため、季節や天候といった複数の要因で変わるハウス環境をより丁寧に維持する際には、とても便利です。
またブドウは1年1作のため、どうしても記憶任せでは難しい1年前のデータとの正確な比較も、みどりクラウドのデータ自動蓄積機能を利用すると簡単です。
自分で蓄積したデータだけでなく、みどりクラウドを利用しているほかの農園とデータ共有できる機能もありがたく、実際に管理方法や夜間の温度設定を変更するなど、ほかの農園のデータを参考に試行錯誤しています。
モニタリングしたデータをパソコンやスマホ上で可視化できる「みどりモニタ」は、詳細画面の上部に現在のセンサ数値一覧、下部に時系列変化といった分析情報と、見やすく直感的に操作できるレイアウトです。異常がないか頻繁に確認したい現在の数値が、パッと目に入るため助かっています。
みどりクラウドは使いやすく、複合制御・遠隔制御のエントリーモデルとして非常にオススメだと思います。将来的には、さらに高度な制御を目指すユーザ向けのハイエンドモデルが登場すると、選択肢が広がってありがたいです。
たとえば私は日射量に注目しているのですが、現在は時間と温度で開閉している内カーテンを制御する、潅水を制御するといった形で測定した日射量で自動化してみたいと考えています。
農業におけるIoT活用という視点で考えると、現在は作物周囲の環境データを測定していますが、理想はブドウの実の直径や糖度の変化といった植物体からのフィードバックデータ収集と環境制御の自動化だと思います。
今後、日本全体が少子高齢化していく中で農業従事者の減少は避けられません。そのため労働生産性を高めるために、テクノロジーへの期待はより大きくなっていくと考えられます。どこまで農業従事者がIoTを活用できるか、私たち自身の勉強は不可欠ですし、セラクさんのような企業と密接に連携することで、現場ニーズを盛り込んだ良い製品のリリースにつながればと思っています。
圃場にセンサを設置するだけで、作物の生育環境や状況を自動で計測・記録、そのデータをPCやスマホなどに表示し、離れた場所からいつでも確認できます。
他社の環境制御機器と連携し、遠隔操作が可能です。ハウスの規模やニーズに合わせて、コストを抑えながら、必要な機器だけを導入・連携することができます。